中小企業がOKR導入を成功させるためのチームビルディング具体例と実践方法
OKRとは
OKRとは、「Objectives and Key Results(目標と主要な結果)」の略称です。
OKRでは、企業が目指すべきビジョンや目標と、社員一人ひとりの目標をリンクさせることにより、すべての社員が同じ方向を向いて重要課題に取り組みます。
OKRでは、「達成目標(Objectives 以下O)」と、Oの達成度をを測る「主要な成果(Key Results以下KR)」を3~5つ設定します。
OKRの特徴は次の通りです。
・容易に達成できない高い目標(ムーンショット)の設定が推奨される。
・高頻度で進捗確認と評価を行う
・組織のビジョンや目標と、個人の目標を連動させることができる。
・目標の構造が明確で、全社で共有されるため、部署間や部署を超えた協力が得られやすくなる。
・目標が明確で、上司の支援を受けられるため、エンゲージメントが高まる。
OKRは、従業員のモチベーションを高め、高い目標を実現するための組織マネジメントです。
中小企業がOKRを導入するときの課題
OKRの理解不足
OKRの導入を急ぐと、OKRの概念や使い方について十分に理解していないまま導入を試みるます。
その場合、特に中小企業では、経営陣やチームリーダーが適切な目標設定に不慣れなことが多く、そのためにOKRが正しく運用されない可能性があります。
具体的な課題例
・目標(Objective)が抽象的過ぎて、共感を得られるものになっていない。
・成果指標(Key Results)が定量化されていない。
・チームや社員がOKRを「チェックリスト」と誤解して、OKRの効果が発揮されない。
既存の業務文化との衝突
中小企業では、従来の目標管理方法や上下関係が強い文化が根付いていることが多く、OKRのようなオープンで透明性の高い仕組みに適応しにくいことがあります。
また、社員がOKRを追加の仕事と感じ、不快感や抵抗感を示すこともあります。
具体的な課題例
・上司がトップダウンで目標を設定してしまうため、部下のやらされ感がすごい。
・上司がトップダウンで指示を出し、創造的なコミュニケーションが生まれない。
・目標がオープンにされることで、失敗を恐れて挑戦的な目標を立てない。
リソース不足
中小企業では、OKRの導入や運用に必要な時間や人員が限られている場合が多く、OKRの設定・運用が難しい面があります。
時間の不足
OKRを策定し、進捗をモニタリングするプロセスには時間と労力がかかるため、日々の業務との両立が難しくなることが多い。
そのため、OKR設定や進捗確認・評価のための時間を十分確保せず、OKRが形骸化することがあります。
マネジメントスキルの不足
中小企業では、マネジメントスキル研修に時間を割いている企業は多くありません。
OKR導入時にトレーニングを提供する人材が不足していると、導入初期に十分なトレーニングが提供されません。
そのため、OKR運用に必要なマネジメントスキルが不足し、OKRの達成が難しくなります。
OKR導入とチームビルディングの関係性
チームビルディングとは
チームビルディングとは、個性あふれる多様な人材が集まる組織において、それぞれの強みを最大限発揮し、経営目標を達成する組織づくりのための取組全般をいいます。
チームビルディングは、変化が速く、かつ複雑な現代のビジネス環境のなかで、企業がビジョンや経営目標を達成する組織をつくるために行われます。
私たちが、チームビルディングを行う上での土台としているのが、コーチングファームジャパンの石見幸三氏が提唱したチームビルディングSSR理論という考え方です。
チームビルディングSSR理論では、組織の力を「人材力/Strength」「組織力/Structure」「関係力/Relation」の3つの要素に分類しています。
それぞれの要素は、以下のように説明されます。
①人材力(強み/Strength)
メンバーの強みや思考・行動の特性を踏まえて、信頼感を醸成しながら適所適材やリーダーシップ発揮を考える力
②組織力(構造/Structure)
会社のビジョンと、そこで期待されるチームの目的や目標、そこから導かれる個人の目標の接点をしっかりつくったうえで、一人ひとりが主体的に動き、かつチーム全体が一体となって相乗効果を生み出せるようにする力
③関係力(関係/Relation)
メンバーの創造的な対話により、やる気と能力を引き出し、チームを活性化する力
チームビルディングは、この3つの要素をバランス伸ばしていく取り組みです。
チームビルディングとOKRの関係
チームビルディングSSR理論の視点からは、OKRは組織力を高める取組です。
OKRで会社のビジョンと、そこで期待されるチームの目的や目標、そこから導かれる個人の目標の接点を明確にすることで、組織全体のパフォーマンスが向上し、高い目標を達成します。
最強のチームビルディング式OKRでは、
高い目標を実現するために、個々の特性に応じた仕事のアサインをするなど、人材の強みを活かす取り組みを行います(人材力の向上)。
また、目標に対して継続的な測定や評価を行い、1on1を中心に、上司の支援のもと目標の達成を目指します(関係力の向上)。
OKR目標を掲げるだけでなく、OKRを成功に導く取組をしっかり行うと、結果としてと人材力・関係力も向上していきます。
中小企業のOKR導入を成功に導くチームビルディング具体例
人材力の取組
メンバー一人ひとりの才能や専門的技術をチームの中で活用する方法を身につけ、OKRの高い目標を達成できる組織をつくります。
思考特性診断(効き脳)
人の価値観や判断は、脳の思考特性に大きな影響を受けています。
同じ情報を受けても、受け手によってどのように受け止めるか異なります。
そのため、仕事や学習の得意・不得意も人によって異なります。
得意なこと(強み)は本人が当たり前に発揮しているため、当の本人はそれが強みであることに気づいていません。
思考特性の違いを理解することによって、一人ひとりの能力を十分引き出すことができます。
思考特性診断について詳しくはこちらも参照ください。
行動特性診断
例えば会議のときに、声が大きく話題をリードする人、意見はあるのに自ら発言しない人など、人の行動は「行動特性」に大きな影響を受けています。
行動特性の違いが分かれば、自分の行動を律することができるようになるとともに、チームで対処ができるようになり、チーム内の無駄な争いがなくなります。
チーム内の人材の行動特性を全員で共有することが、チームのパフォーマンス向上につながります。
スキルマップ作成
スキルマップを作成することにより、一人ひとりのスキルと成長を見える化します。
チームが成果を上げるために必要なスキルが不足している場合は、育成や外部からの補充で補います。
現在のスキルマップを基に、人材育成計画を作成し、OKR目標の達成につなげます。
組織力の取組
OKRそのものが組織力を高める取組ですが、OKRの成果をより高めるために、次のようなチームビルディングに取組みます。
経営理念策定
経営目標(OKR)は、経営理念を実現するための取組ですが、中小企業の中には経営理念を策定していない企業も多くみられます。
経営理念が定まると、メンバーの判断の基準が固まります。
一人ひとりの意見が異なったとき、判断の拠りどころとなるのが経営理念です。
OKRに取組むと、多くの場合経営理念の必要性に気づきます。
OKR運用イベントの実施
OKRには、週次・月次・3カ月ごとのOKR運用イベントが決まっています。
しかし、中小企業では時間のリソース不足により、OKR運用イベントがおろそかにされることがあり、そうするとOKRの成果が十分に発揮されません。
既存の会議イベントなどを見直して、OKR運用イベントを着実に実施します。
問題解決力向上研修
OKR運用イベントの中に、月次のコンフィデンスミーティングというイベントがあります。
高い目標に挑むOKRでは、KR担当リーダーの知識や経験では解決できない問題がたくさん生じます。
そのような問題をチームで解決するのが、コンフィデンスミーティングです。
中小企業では、チームの問題解決力を上げる研修を受ける機会は少ないので、問題解決の型を知らないことが多いです。
問題解決の型を学んで、チームの問題解決力を向上し、高い目標を実現するチームをつくります。
関係力の取組
信頼関係向上研修
チームの中に心理的安全性がなければ、思い切った発言はできません。
関係力向上は、お互いのことを知り、否定しない文化をつくっていくことから始めます。
チームメンバーの特性や価値観を共有し、信頼関係を醸成します。
コーチング研修
コーチングは、対話を通じて部下の能力や成長を引き出し、目標達成を支援するコミュニケーションです。
コーチングに必要な、傾聴・承認・質問といったスキルを学ぶとともに、実践を通じてコーチングを身につけます。
上司と部下の双方向コミュニケーションが、問題解決の質を高めます。
1on1導入
OKRは、3カ月ごとの高い目標に挑むため、コーチングに頼ったコミュニケーションではスピード感が不足します。
社員の成長を待っているだけでは、目標達成はおぼつきません。
目標を達成するための1on1では、
・目標を達成するための知識やスキルを教えるティーチング
・相手の価値観も受け止めるが、自分の考えも適切に伝えるアサーション
・特性診断に応じた個別対応
といったスキルが求められます。
部下の成長とOKR目標達成のバランスを見ながら、これらのスキルを使い分ける能力を養います。
1on1について詳しくはこちらもご覧ください。
中小企業での導入成功事例
事例1:従業員が20名の建設業
OKRは2層目まで全従業員参加で作成。
2週間に1回、ウィンセッションとチェックインを併せたミーティングを開催。
ミーティングでは、KRの進捗と達成したことを共有し、OKRオーナーが進捗や取り組みに対してフィードバックを行っている。
事例2:従業員170名の食品・エネルギー関連事業
当初6カ月はOKRの知識を含めたマネジメント研修を行う。
全社~個人まで、5階層のOKRを設定し、運用は部門・各課で、運用しやすいように設計し、OKR運用マニュアルを作成。
その過程で、不要な会議などはOKRイベントに統合することによって、運用イベントの着実な実施を支援した。
まとめ
高い目標の実現を目指すOKRでは、組織の多様な人材の強みを活用し、経営目標を達成する組織づくりの取組であるチームビルディングが必要です。
チームビルディングとは、組織の人材力・組織力・関係力を高めながら、組織のビジョンや目標を実現する力を高める取組のことをいいます。
OKR(目標管理)とは、チームビルディングのなかでは、組織力を高める取組と捉えることができます。
OKRの高い目標を達成するためには、メンバーの力を活かし、問題解決を行う双方向コミュニケーションが重要です。
OKRを設定したら、OKR達成のためにあわせてチームビルディングも行いましょう。