中小企業におけるOKRの導入とその効果|OKRの中小企業への導入は山内経営会計事務所
先生!
わが社も従業員の数が多くなってきたのですが、昔ほどうまくマネジメントが出来ている気がしません。
成長に対して採用や教育が追い付かず、事業計画が達成できなくなってきました。
いったいどうすれば良いでしょうか?
生産性の高い効果的な組織を創りたいのであれば、Googleやメルカリが採り入れている組織マネジメント、OKRを導入するのが効果的だよ。
OKRですか?
それはどのような組織マネジメントなのでしょうか?
一つの高い目標に向かって、全社で一丸となって取り組む組織マネジメントです。
急拡大しているような組織や、事業再生が必要な組織だけでなく、事業計画を達成できないような企業が導入すると効果的ですよ。
OKRとは
OKRの基本概念
OKRとは、「Objectives and Key Results(目標と主要な結果)」の略称です。
「達成目標(Objectives 以下O)」と
その達成度を測る「主要な成果(Key Results以下KR)」を設定して、
企業が目指すべき目標と社員一人ひとりの目標をリンクさせることにより、
すべての社員が一丸となって同じ方向を向いて重要課題に取り組みます。
OKRのObjectiveは、組織がどのような状態になっている必要があるのかを表したもので、
基本的には定性的な目標が推奨されています。
OKRでは、基本的に60%~70%の達成でよしとするチャレンジ目標を立てることが推奨されます。
このような目標を「ムーンショット目標」と言います。
Objectiveにどのように近づいているか、
という達成状況を測るための主要成果がKey Resultsです。
達成状況を測るための指標であるため、
Kは定量的なものとすることが推奨されます。
OKRは、会社の重要課題を解決する目標に全員で挑む取組ですが、
OKRイベントで頻繁にKRの達成度合いをチェック・修正するしくみを運用しながら、
組織全体の目標の達成と社員の成長を同時に目指す組織マネジメントです。
OKRの歴史と導入企業
目標管理の方法として、MBOやKPIなど様々な方法がありますが、
これらは主に現状の先にある未来を実現するのに適した目標管理制度です。
しかし、複雑で変化のスピードが早い現在では、
これまでの目標管理制度が上手く機能しないことが増えてきました。
そのような状況の中で創造性を発揮し、短期間で新しい変化を生み出す目標管理制度の必要性が生じてきたためにOKRが生まれました。
OKRは主要市場でライバル社に押され、存亡の危機にあったインテルで生まれました。
従業員の半分を動員したOKRで、
シェアを劇的に回復し、市場を制することができました。
当時インテルで働いていたジョン・ドーアが、
Googleに乞われてOKRの導入を行い、
以降、GoogleのマネジメントはOKRで行われています。
日本でも、メルカリ、ユーザーベース、日立製作所などがOKRを導入しています。
中小企業がOKRを導入するメリット
効果が出るスピードが速い
企業規模が大きくなると、
OKRの階層が5以上になったり、適切な目標を立てる難易度があがります。
一方で、中小企業では多くの場合OKRは3階層までです。
OKR設定や教育にかける時間も少なくて済むため、導入スピードは速くなります。
また、これまでマネジメントに取組んでこなかった企業では、
OKRに取り組むことで大きな成果が上がることが期待されます。
目標を起点にビジョンが浸透する
OKRでは、会社のビジョンに対する現状の課題を解決する目標を設定します。
個人の目標も、会社のミッションやビジョンに紐づけて設定するため、
結果としてビジョンが浸透します。
中小企業では、
そもそも仕事の目標が共有されていることも多くないため、
チームで適切な目標を設定し、共有することが、競争力の強化につながります。
部門間が協力しやすくなる
OKRは、会社のビジョンに紐づいた目標を、社員全員が共有するしくみです。
OKRを導入すると、会社全体の目標の達成に向かって、
自分の部署だけでなく、他の部署の目標も意識するようになります。
結果として、部門間協力が自然とできるようになります。
生産性の向上
中小企業では、全社員が共通の目標を追うというマネジメントを行っている企業は多くありません。
適切な目標に集中して仕事をすると、一人一人の生産性は向上します。
OKRを導入し、継続的に評価・運用を続けると、
PDCAサイクルが回るようになり、改善活動を通じて生産性が向上します。
社員育成ができる
OKRを導入すると、会社の目標達成に向けて、
従業員は普段はやらないことをやる必要に迫られます。
また、チームの目標や個人の目標が明確になるため、
各人に当事者意識が芽生えます。
当事者意識をもって、普段やらない新しいことに挑戦することが、
従業員の成長につながります。
管理職(リーダー)は、OKRの運用を通じてマネジメント能力が向上します。
中小企業のOKR導入事例
事例1:従業員が20名の建設業
OKRは2層目まで全従業員参加で作成。
2週間に1回、ウィンセッションとチェックインを併せたミーティングを開催。
ミーティングは、KRの進捗と達成したことを共有。
OKRオーナーが進捗や取り組みに対してフィードバックを行う。
事例2:従業員170名の食品・エネルギー関連事業
当初6カ月はOKRの知識を含めたマネジメント研修を行う。
全社~個人まで、5階層のOKRを設定。
運用は部門・各課で、運用しやすいように設計。
その過程で、不要な会議などはOKRイベントに統合した。
OKR設定のポイント
OKRでは、「達成目標(Objectives 以下O)」と
その達成度を測る「主要な成果(Key Results以下KR)」を3~5つ設定します。
会社全体のOKRを先に設定し、その後に部のOKR、課のOKRというようにツリー状に設定します。
中小企業では、一般的にOKRの設定は3層までです。
それぞれのOKRはつながっており、全体として全社OKRを実現できるような目標を設定します。
O(目標) 設定のポイント
まずは、目標を定めます。
OKRの目標は明確かつ定性的な目標であることが推奨されています。
定性的とは、数字では表せない理想の状態のこと。
できれば、メンバーがわくわくできるような表現になっていることが理想です。
また、少し達成が難しいくらいのムーンショット目標を設定することが推奨されています。
ムーンショット目標は60%~70%の達成が予想される少しチャレンジングな目標です。
ムーンショット目標を設定したほうが、メンバーのモチベーションが高まり、成果が上がることが分かっています。
KR(主要な結果)設定のポイント
Oが決まったら、KRを設定します。
KRは、Oの達成度合いを測るための定量的な指標です。
定量的とは、数字で表せる性質をもつ指標です。
1つのOに対して様々な視点から、そのOを達成するKRを3~5つ設定します。
KRはSMAREの法則を意識して設定しましょう。
OKRのSMART
SMARTの法則では、Aは達成可能な目標(Attainable)ですが、
OKRにおいては、AはAmbitiousに変更して設定することが推奨されます。
1.具体的であるか(Specific)
明確で、「5W1H」がクリアになっていること。
2.測定可能であるか(Measurable)
量で測れること。検証が可能であること。
検証可能であるからこそ、必要に応じて目標の修正が可能です。
3.野心的か(Ambitious)
60~70%達成で十分な、野心的な目標であること。
4.目的に沿っているか(Relevant)
戦略実現の目的に合った目標であること。
自分が所属する部署の目標、会社の戦略・方針に合っているかを確認します。
5.具体的な期間か(Time-bound)
達成期間が限定され、期間が決まっていること。
中小企業のOKR導入手順と必要な準備
初期準備と計画
初期準備
OKRは、会社のビジョンに合わせて個人目標を設定していくため、
会社のなかでミッション・ビジョン・バリューといった経営理念が共有されていないと、
全体として繋がった目標を立てることが難しくなります。
中小企業は経営理念をしっかり定めていない企業も多いため、OKR導入前に経営理念を策定しましょう。
また、何のためにOKRを導入するのかという目的が明確でないと、
下層に進むにつれて目標の粒度がバラバラになり、全体が繋がった目標を立てることが難しくなります。
全従業員に伝わるように、OKR導入目的を明確にしましょう。
また、OKR開始までにOKR運用マニュアルを作成しておくと、
初期からPDCAサイクルがまわるようになるため、OKRマニュアルを作成しましょう。
計画
まず、一部門だけ導入するのか、それとも全社で一気に導入するのか。
チームのOKRにとどめるのか、個人個人までOKRを設定するのか。
OKRの導入範囲を決定します。
次に、OKR推進チームを決定し、OKR推進チームがOKR導入計画を策定します。
また、OKR推進チームは、OKRマニュアルを作成します。
初めてのOKR設定
初めてOKRに取り組む場合は、
多くても2層目OKRまでの設定にとどめます。
目標管理に慣れていない中小企業では、
最初からOKRを全社へ展開することはあまりオススメできません。
限られた部署・メンバーがOKRパイロットチームとなって、
3か月間学びながら取り組んでみることが重要です。
まずは、まずは、経営トップが全社OKRを設定し
次にパイロットチームが2層目OKRの設定をします。
OKRの運用と評価
OKRの設定が終わったら、パイロットチームがOKRマニュアルに沿って運用を行います。
OKR推進チームは、パイロットチームのOKR運用を支援するとともに、定期的にフィードバックをもらい、その対応を決めていきます。
最初のOKR運用期間(3カ月)が終わったらOKR結果レビューを行います。
KRの達成度を確定して、目標との差を次のOKRに活かします。
また、OKR運用改善ミーティングでOKRの運用を振り返り、効果的な運営できるようOKR推進チームに報告します。
OKR推進チームは、パイロットチームからもたらされたフィードバックを活かしOKRマニュアルを改定していきます。
全社展開
OKRパイロットチームの経験を活かして、OKR運用イベントと既存の会議体との調整や統合を行います。
重複するイベントなどを無くして、無駄を省きます。
管理職がOKR運用イベントを効果的に運用できるよう、必要に応じて管理職マネジメント研修を行います。
全社展開の準備が整ったら、全社に向けてOKR導入の目的や、OKRの設定を行うキックオフイベントを行います。
運用イベントはチームの状況に合わせた形で行うことを許しながらも、必ず行うことを徹底します。
全社で運用記録を残すことで、少しずつ改善することを徹底します。
OKR導入の注意点
OKRは新しい組織マネジメントですので、導入時はうまくできないこともあります。
導入時に気を付けるポイントを紹介します。
目標が適切でない。
OKRが効果を発揮するためには、目標が組織全体で適切になっている必要があります。
しかし、日本の中小企業の中には、まだ目標管理を取り入れていない企業もあります。
そういった企業では、どのような目標を立てれば良いか分からないという課題があります。
また、OKRを設定していくと、
・Oの設定は得意だけど、KRの設定が苦手な人。
・KRの設定は得意だけど、Oの設定が苦手な人
・全く目標が書けない人
など、すべての人が適切な目標を設定できる訳ではありません。
さらに、日本では目標達成率が100%であることが評価される傾向があります。
OKRは達成率が70%〜80%程度を前提とした挑戦的な目標設定を求めるのですが、
「達成できない目標」を掲げることに対する抵抗感から、失敗を恐れて挑戦的な目標を避ける傾向があります。
適切な目標を立てるには
うまく目標が立てられないのは、人にはそれぞれ強みに違いがあるからです。
強みに違いがあるので、全体として適切なOKRの設定はなかなかできません。
そういった場合は、チーム全体で強みを活かす必要があります。
チーム全体で目標を立てれば、より適切な目標が設定できるようになります。
チームの強みの活かし方はこちらもご覧ください。
挑戦的な目標を立てることに対して抵抗感を感じるメンバーが多い場合は、
まずは必達目標を掲げることも考えましょう。
OKRが漠然としていたり、
全社OKRに対して適切でない部門等OKRも散見されます。
そういった場合は、そのチームの上層のチームや、
他の部署のOKRを見たり、相談しながら、
タテ・ヨコから見て適切な目標を立てましょう。
社内コミュニケーションの改善
OKRは、組織マネジメントのフレームワークです。
OKRを機能させるためには、フレームワークの教科書通りに運用する必要がありますが、
今まで1on1や、チームミーティングといった、
マネジメントに必要なコミュニケーションができていない場合には、
コミュニケーションの質・量の両面で改善が必要です。
コミュニケーションを改善させるには
OKRをうまく機能させるためには、
すべてのリーダーにポジティブアプローチの意識や、
コーチング、ティーチングのスキルが必要です。
スキルが身についていない場合は、
社内研修などを行って、OKRに必要なコミュニケーションスキルを身につけましょう。
継続的な改善
OKRは、日本人にとって新たなマネジメントです。
中小企業が初めからOKRをうまく設定して、完璧に運用できることはありません。
目標の設定やコミュニケーションだけでなく、
運用方法も新たに設計していかねばなりません。
継続的にOKRの改善を行いましょう。
継続な改善を行うには
OKR運用イベントの運用改善ミーティングやOKR評価レビューを必ず行いましょう。
効果的にOKRを運用しているチームのやり方などを全社に共有するなど、自社に合った運用へと改善していきましょう。
人事評価との関係
OKRはチャレンジ目標を推奨しているため、
既存の目標管理・評価制度と結合させようとするとOKRの効果を十分に発揮できません。
そのため、OKRを人事評価と密に結合させないことが推奨されます。
しかし、OKRを一部人事評価の評価対象としている企業もあります。
OKRを人事評価に反映している企業例
中小企業でOKRを人事評価に影響させている企業は稀ですが、OKRを人事評価に一部反映している企業を紹介します。
・マネーフォワード
事業目標に基づく予算目標は100%達成を求めるが、100%達成を前提としないムーンショット目標の設定を織り交ぜて設定しています。
目標達成度そのものではなく、目標に対するアウトプット内容を人事評価の検討材料に加えています。
・ユーザーベース
70%の達成でも許容する「ストレッチ目標」と100%の達成が求められる「コミットメント目標」のどちらかをチーム内で合意し、選択して目標を設定しています。
ジョブ型雇用を採用しており、OKRの達成度はジョブグレードの決定に影響を及ぼしているが、OKRの達成度が処遇のすべてを決定しているわけではない。
まとめ
OKRは、企業が目指すべき目標と社員一人ひとりの目標をリンクさせることにより、
すべての社員が一丸となって同じ方向を向いて重要課題に取り組む組織マネジメントです。
中小企業のOKR導入には様々なメリットがありますが、中小企業に導入するにはリソース不足を始めとする様々な課題もあります。
正しいOKRの設定ポイントや導入手順を守りながら、注意点を意識してOKRの導入を進めましょう。